エボラ出血熱の流行がなかなか収束しないなか、米国の製薬ベンチャー企業が開発中のZMappという薬が英米のメディアを中心に頻繁に取り上げられている。
その様は、まるで国と製薬企業とが一体となってマーケティングをしているようにすら見受けられる。
エボラ出血熱に有効と考えられている薬は、日本にも富士フィルム(の子会社)が開発したFavipiravir(別名をAviganまたはT-705)という薬があり、次のような事柄を考えるとZMappなどよりもはるかに優っているように思えるのだけれど。
- マウスを使った実験でだが、エボラウィルスに対しての効果が確認されている。
- ZMappが人を対象とした臨床試験にはまだ進んでいないのに対し、Favipiravirは既に日本国内において(インフルエンザウィルスに対する治療薬としてだが)開発を終えている。開発を終えているということは、人に投与をした場合の安全性が確認されているということである。
- なぜウィルスに対して効くのか、その理由はよく分かっていないと報道されているZMappに対して、Favipiravirはウィルスの増殖を抑えるメカニズムが分かっている。その上で、有効と考えられている。
- 高々数名の患者に投与しただけでもう在庫がないと報道されているZMappに対して、Favipiravirはすでに20,000人以上に投与するだけの在庫があると報道されている。ZMappは開発段階にある薬だから量産されている訳もなく、したがって在庫がごく少量なのは当然ではあるが、在庫がないだけでなく、量産に必要な設備も、またことによると量産技術の開発もまだ未着手である可能性もある。
こうしたことを考えると、どう考えても富士フィルムの薬の方が期待すべき薬であるし、日本政府としてももっと強く我が国の富士フィルムの薬を積極的に打ち出すべきであったと思える。官房長官による「提供する用意がある」という発表もあったが、マスコミの取り上げ方も含めて宣伝活動という意味ではアメリカ政府にしてやられたという感じがする。
グローバル競争の時代では、こうした官民一体となった作戦の立案と遂行とが必要になるというのに。
でも、ことによると、エボラ出血熱に対する特効薬ということでは、仮にZMappが有効な薬であったとしても、量産体制を作るのには時間がかかるし、少量の生産から量産に移行するには技術的に克服しなければならない課題が出て来ることも十分に考えられるので、結果的にはFavipiravirが使われることになるのではなだろうか。仮にそうなったとしても、アメリカ政府と製薬業界とは、アメリカ人二人を含む数人の人間に投与したデータが得られたことで十分満足しているのではないだろうか。
そのように考えると、ZMappはまだ開発段階にある薬であって人に投与した場合の安全性すら検証されていなかったこと、他にも有望で既に開発を終えた薬があることを考えると、量産体制はおろか十分な在庫すらない段階で普通であれば使用されなかったであろうZMappをマスコミ操縦を巧みにすることで使用する環境を作り出し、人での試験データを得ることに成功したということだったのかもしれない。